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「ガラクタの子と鉄屑の城」

イラスト・キャラクターデザイン:歯車ラプト

​~Story~

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ここは鉄屑の街。

機械とガラクタだらけの街。

周りの国が争いを続け、その戦火に巻き込まれるものですから、

兵器の残骸がそこら中に積みあがっています。

 

この街で生まれたとある少年。

彼にはモノに命を与える力がありました。

小さな時から一人きりで生きていながら、彼は孤独ではありませんでした。

なぜなら、彼が生み出した機械の「トモダチ」がいたからです。

 

少年は暗い路地裏の突き当たりに秘密基地を作っていました。

ガラクタを集めて積み上げた彼だけの王国。

それは傍から見れば小さく不格好でしたが、

彼にとっては最高の城だったのです。

 

少年が集めた鉄屑が積まれ、城はどんどん大きくなっていきます。

同時に、彼はトモダチを一人、また一人と増やしていきました。

彼には叶えたい夢があったのです。

 

「皆でここで夕暮れまで遊んで、星空を見て眠ろう。

周りの争いのことなんて気にならない、僕たちだけの楽園をここに作ろう。」

それが少年の描いた、小さくも幸せな景色でした。

楽園に少しでも近づけるため、そしてこの夢を忘れないために。

彼は城の周りに花を植えていくのでした。

 

 

月日が流れましたが、戦火は終わりません。

相も変わらずここは鉄屑だらけの街です。

少年が築いた城は空に届くほどに大きくなっており、トモダチも増えました。

かと言って、街の住人はさしてそれを気にも留めませんでした。

皆、鉄屑の山なんてものは見飽きていましたし、自分が生きることで必死だったのです。

 

今日もまた一人、トモダチを作り出す少年。

その時、視界が歪みます。彼は最近、モノに命を与える力を使う度に

意識が朦朧とするのです。

しかし少年は躊躇わず城を更に大きく、トモダチを更に増やしていきます。

彼には叶えたい夢があるのですから。

 

ある日知らない国の兵隊達がやってきました。

戦いに勝つため大きな力を求めていた彼らは、

少年の城に目をつけました。

長年積み上げられてきた鉄屑の中には、

まだ使えそうな大きな兵器も混ざっています。

兵隊達はガラクタの山を踏み分け、我が物顔で王国を漁り始めました。

 

次々と鉄屑の山は荒らされ、抵抗するトモダチも壊されていきます。

それを見た少年は決心します。

彼の唯一の夢を守るため、小さく幸せな景色を実現するため。

彼は自分の命を全て城に注ぎ込むことにしました。

 

少年が命の全てを込めた城は街で最も大きな兵器となり、

兵隊達と戦い始めました。押し寄せる人を、銃を、戦車をはじき返し続けます。

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やがて日が暮れても、城が崩れることはありませんでした。

溢れんばかりの生命力を注ぎ込まれた城は、夕暮れの中遊ぶ子供のように、

敵を蹴散らし続けました。

 

代わりに、少年の意識は遠のいていきます。

それでも彼の頭には自分の夢がはっきりと浮かんでいました。

「皆でここで夕暮れまで遊んで、星空を見て眠ろう。

周りの争いのことなんて気にならない、僕たちだけの楽園をここに作ろう。」

城の周りの花が、散っていきました。

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全てが終わり、積み上がった兵器と仲間達の残骸。

城の天辺、星空の元。少年は永遠の眠りにつきました。

少年の与えすぎた命は、城と共に尽きたのでした。

 

最後に"一つ"だけ残ったトモダチ。

それは少年に花を捧げました。

少年がいなくなってなお、自分の意志を持って動き続けているそれは

紛れもなく、新たな命でした。

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それは……いいえ、彼は周りから鉄屑を集め始めました。

再びここに城を、王国を築くため。

少年の夢を叶えるために。

「皆でここで夕暮れまで遊んで、星空を見て眠ろう。

周りの争いのことなんて気にならない、僕たちだけの楽園をここに作ろう。」

新たな始まりを彩るべく、花が舞ったのでした。

「ガラクタの子と鉄屑の城」

作・音:風街ピリカ

絵:歯車ラプト

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