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「白雪の子とオーケストラの森

イラスト・キャラクターデザイン:七草マキコ

白雪の子.png

──少年の世界は"白"に覆われていた。
1年、10年、100年経てど消えない雪。
人々が積み上げた過ちにより、雲が太陽を隔離した世界。「ハル」という季節を忘れ去った世界。
その"白"は少年には退屈すぎた。


目を覚ましてすぐ 隣に目をやる
プレゼントは無い
真っ白な風は 灰色の空に
舞い消えてく
 
いつか読んでた 大好きな絵本
「魔法の配達人」
鈴の音と共に 星空を駆けて
夢を配る


雪の丘を越え 森の奥底
誰も来ない僕だけのステージ


落ち葉を舞い上げ つららを鳴らして
奏でるのは冬のオーケストラ
どっかを飛んでる 憧れの人に
届けるんだ

いつからだろう 来ないと分かっても
この独奏(ソロ)だけは止められなかった
魔法がこの世に 無いのだとしたら
僕が奏でよう

──その音はどこまでも遠く、いつまでも永く森中に響き渡った。
故にそれを聞きつける者が現れるのも必然だった。
やがて小さく白い人影が音の主に声をかける。
同時に、鈴の音が響いた。


現れた君は 絵本で見ていた
「魔法の配達人」
"大切"を糧に 願いを一つだけ
叶えるという

それならば僕はこの世界の"白"を
"緑"に変えたい
おとぎ話で見た かつての楽園
「ハル」が欲しい


毎晩夢に見た 草木の絨毯
風が撫でて花は踊る


葉擦れが彩る 小鳥の歌声
奏でるのはハルのオーケストラ
目の前に立ってる 憧れの君に
聞かせたいな

いつからだろう 届かないことすら
輝きを彩るのだと知った
魔法が「この世」に 無いのだとしたら……


──彼女が言う「大切」の正体に、少年は勘付いていた。
その姿が古代の書物で読んだ「雪女」にそっくりだったからだ。
それでも少年は躊躇わずに目を閉じた。
その"白"は少年には退屈すぎたから。
魔法はこの世に、無いのだから。


ふと目が覚めて 隣に見つけた
プレゼントの箱
開けた瞬間 広がった景色
そこに「ハル」はあった


花びらの吹雪 木漏れ日のスポットライト
夢より夢のようなオーケストラ
憧れの君と 手を取り合って踊るのさ

いつか願った孤独じゃないステージ
この二重奏(デュオ)は永遠に止まらない
魔法がこの世にないのだとしてもここに
見つけたよ


森の奥底 安らかに眠る
一人の少年
真っ白な風が消えてく空は
青く晴れた
鈴の音が響いた

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