「炎の子と宝石の夜」
イラスト・キャラクターデザイン:Mamo
~Story~
賑やかな街の隅の隅。
薄暗い影の中のそのまた影。
そこに居りますは黒い炎を吐く少年。
闇を象徴する黒。不吉を呼び寄せる黒。
彼は街の者から忌み嫌われていました。
華やかな街の中心の中心。
天照す光の中のそのまた光。
そこに居りますは白い炎を吐く少女。
光を象徴する白。幸運を呼び寄せる白。
彼女は街の者から祝福されていました。
ある日路地裏で出会った二人。
心優しい少女は、影にいる少年を放っておけず近寄ります。
少年はくすんだ目で睨み返し言い放ちます。
「影に生まれ憎まれる苦しみなんて、君は知らないだろう」
それでも少女は手を差し伸べてこう言うのでした。
あなたの黒い炎が
果てしなく続く夜空としたら
私の白で星を浮かべよう
宝石の夜を紡ぎあげよう
その目は純然と輝いていました。
その声は純粋に響いてきました。
少年の真っ黒な心に、確かに一つの光が宿ったのです。
かくして、世界で最も正反対な白と黒の共演は幕を開けました。
時は重なり、少年の目はいつしか輝いていました。
少女と街を抜け出し、旅に出たあの日から。
少年の心には1つ、また1つと星が浮かんでいきました。
今となっては少年の心も目も、星空の輝きを帯びていました。
少女もまた幸せでした。
少年の黒は、少女の白の輝きをより一層際立たせたのです。
二人の旅路は誰よりも自由でした。しかし……
少女の目はいつしか霞んでいました。
眩い輝きすら覆いつくしてゆく時の流れ。
生けるものが等しく逃れられない運命。
少女はすっかり老いていました。
──ある日旅の中で立ち寄った図書館で、少女は見つけました。
「黒い炎を吐く種族」についての本を。
その本が綴るには、「黒い炎は不死の証」なのだと。
「我々が欲してならない永遠の命を持つ、忌むべき種族」なのだと。
少女は少年と生きる時間が違うことを知ってしまったのです──
少女は恐れました。老いていくことを。少年を置いていくことを。
それでも少年は少女の手を握りしめ、
元気づけるようにこう言うのでした。
君のその白い炎が
限りある命を燃やすのなら
僕の黒で塗りつぶしてやるさ
宝石の夜をまだ見ていよう
……
更に時は重なり、少女は星になりました。
あの日出逢った時から、
二人の旅路は誰よりも自由でした。
二人の景色は誰よりも幸せでした。
少年は今や心の中でだけ輝く少女に、こう言うのです。
「君のその白い炎が 心に照らしてくれた光は
僕の黒がある限り輝く 宝石の夜は終わらない」
そう、少年の黒が永遠であるならば。
少女の白もまたそこに浮かび続けるのです。
思い出の中の少女は、あの時の純粋な目で、純然たる声で、いつだって少年に手を差し伸べます。
「宝石の夜を紡ぎあげよう」
「炎の子と宝石の夜」
作・音:風街ピリカ
絵:Mamo