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​「緑風の子と天空島の手紙」

​イラスト・キャラクターデザイン:山蕗みにゃも

​~Character

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​~Story~

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世界の片隅、緑の丘。風に生命を吹き込む子。

その少年は、毎日のように手紙を書いていました。

彼が世界を旅する中で見てきた景色、

そこで見つけた素敵なものについて。

手紙と言えば誰かに宛てるものです。

しかし彼の手紙には宛名がありませんでした。

 

少年の知る限り、この世界には自分以外の人間は

存在しなかったからです。

それでも彼は空へと祈り続けました。

「この空の向こうの誰かに届きますように。」

今日も少年は、紡いだ手紙を浮かべるのでした。

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ある日一枚の手紙が少年の元に舞い降りました。

彼にとってそれはまるで天空(あまそら)からの天使。

そこには空の蒼の彼方に浮かぶ楽園が描かれていました。

少年が見たことのない景色、動物、花。

その光景は寝ても覚めても頭から離れません。

初めて届いた。初めて繋がった。

その昂りは少年の心に火を灯していたのでした。

この手紙の主に会いにいこう。

ついに彼は空へと飛び立ちました。

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風に乗って高く雲の向こうへ。

森に、山に別れを告げて、青空の向こう、

そのまた向こうへと少年は進みます。

「この空の向こうの君に伝えたい

僕が見てきた世界はこんなに綺麗だって」

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少年の溢れる想いは、彼を前へ前へと引っ張っていきます。

あの日手紙のおかげで輝き出した心。

今やその光は、少年の痛みも寂しさも全て照らしてくれていたのです。

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旅の途中、少年は空から地上を見下ろしました。

そこには苔むした都市の廃墟が広がっています。

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遥か昔、たくさんの人間が住んでいた痕跡。

長い時を経て、花は芽吹き、草は生い茂り、灰色の街を覆っていきます。

こうして出来たのが、少年の住む緑の丘なのでした。

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空は時に黒雲が立ちはだかり、暴風が牙を向きます。

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それでも少年は前に進むことをやめません。

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その胸に、大切な手紙を抱えて。消えることのない光を湛えて。

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少年の体が傷だらけになり、力も尽きようかというその時、

ふと目の前が晴れました。

その向こうには手紙に描かれていた「楽園」の島。

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なんとか島に舞い降りる少年ですが、

少し歩くうちにどこか様子がおかしいことに気付きます。

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白い花が咲き誇り、その香りを運ぶ風も暖かく穏やか。

しかしあまりにも静かすぎるのです。

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道を尋ねる相手もいないので、少年の頼りは手紙だけでした。

そこに書かれた景色や建物を順に巡っていきます。

静寂の街の中、少年は何だか霞む目をこすりながら、手紙の主を探します。

そういえば、島に降りた時からどうも意識が朦朧とします。

過酷な空の旅による疲れだろうか、いや、それにしては……

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頭に考えを過らせたその時、初めての人影が見えました。

少年は逸る気持ちに身を任せ、それに駆け寄ります。

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しかし近づいた時に気付きました。

その人影が、彼女が眠りについていることに。

そして、二度と目を覚まさないであろうことに。

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──「この雲の下の 君に伝えたい

私が見てきた世界はこんなに綺麗だって」

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世界の片隅、天空の島。暖かい木漏れ日のように笑う天使の子。

その少女は、毎日のように手紙を書いていました。

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地上の楽園の存在を、緑の丘の美しさを教えてくれた彼に、

返事を届けるために。

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その少女は少年が書いた手紙を大切そうに握りしめていました。

少年の手紙は確かに届いていたのです。

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少女の隣に腰掛け、少年は静かに目を閉じます。

今ここに、二人の想いは、二つの世界は結ばれました。

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幸せそうな寝顔を、セピア色の光はいつまでも優しく照らすのでした。

「緑風の子と天空島の手紙」

作・音:風街ピリカ

​絵:山蕗みにゃも

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